はじめに

 「きもの」は、その美しさにおいて、日本が世界に誇る民族衣装です。洋服は立体的で、曲線を多く使って縫ってありますが、それにくらべて日本の「きもの」は 平面的で、直線を多く使って縫ってあります。
 布をたてとよこの織り糸にそって裁断し、縫いしろを切り落とさないため、まったく布を無駄にすることなく縫い上げます。また、運針の方法も日本独特のもので、いろいろな縫い方のなかでは、布地を最も傷めない方法だといわれています。
 優秀な技術者の運針は、糸をはずしたときに縫い跡がほとんど残りません。
 直線を基本とした裁断方法と、独特の運針を組み合わせて作る「きもの」は、体形 が大きく変化したとき、体形の違う別の人が着たいときなど、容易に作り替えることができます。また、男子用を女子用に、子供用を大人用に、「きもの」を 「はんてん」や「帯」などに作り替えができるよう、さまざまな工夫がしてあります。
 収納するときも、平面的にできているため、少ない場所に多く入れるなど、本当によく考えられた衣服です。「ゆかた」を縫ってゆくうちに、「きもの」 について多くの発見をすることでしょう。
社団法人 日本和裁士会

<ゆかたの制作>
第1回 ゆかた作りの基礎知識

ゆかたの制作に必要な道具・用具

1.針
ゆかたを縫うためには、主にもめん針を使います。縫い、くけ、 しつけなど縫い方の違いや、指の長さによって針の長さを選びます。 (もめん針やガス針の5号から9号程度)
 待ち針は、縫うときに布がずれないように固定する針です。 針の頭にプラスチックの花形や玉が付いています。
 ※使用前と使用後は、いつも針の数を点検して、安全な取り 扱いに注意しましょう。

2.糸
 ゆかたを縫うには、木綿や化繊の糸を使います。布地の色に合った色を選びましょう。
 糸の太さは、木綿糸(綿糸)は30番、化繊の糸は40番がよいでしょう。

3.はさみ
●糸切りばさみ
 糸を切るなど細かな作業に使います。
●裁ちばさみ
 布地を切るのに使うはさみで、鉄製やステンレス製などがあります。
※はさみは十分注意して使いましょう。使ったあとは、安全のために ケースに入れておくようにします。

4.ものさし(竹尺)・メジャー
 竹製の50cmものさしと1mものさしを使います。竹尺 はしるしをつける場合などに使います。
 メジャーは体の寸法など、竹尺が使いにくいところを 測るために使います。

5.ヘラ・チャコ
 ヘラはするしをつけるのに使 います。チャコはヘラでしるし をつけにくい布などに使います。
●ヘラの使い方
平らなほうをものさしに当てて 使います。

6.指ぬき
 指ぬきは中指第一関節と第二関節の間にはめ、針のメド(針穴の あるほう)をあて、縫いや、くけに用いる用具です。皮・金属・セ ルロイド・皮セル製などがありますが、すべてを手縫いで縫うとき は皮製のものが適しています。

7.机上くけ台・かたはり(ひっぱり器)
 机のはしにくけ台を取り付け、それ にかけはり(ひっぱり器)を付けて、 布を引っ張って縫ってゆきます。
 縫い、くけ、折りつけに使い、慣れ てくると自分の手のように便利なもの になります。

8.アイロン
 布の地直しや仕上げに使用します。
 ゆかた(木綿地)の地直しには、スチームアイロンを使 用したりキリを吹いて、布地をよく縮めておきます。

9.コテ
 和裁専用の電気コテを使うと便利です。釜の中に熱源があり、サー モスタットで一定の温度を保てるので安全です。2本差し、4本差し などがあります。キセ折りや縫いしろを押さえたり、簡単な仕上げをす る場合に使用します。

10.キリ吹き
 地直しや、仕上げなど布に湿り気を必要とするときに使用します。 金属・プラスチック製などいろいろな形がありますが、細かいキリが 出るものを選びます。

11.えもんがけ・人台
 完成したきもの全体のでき具合を調べるほか、裁断したものの柄の配置を見る場合などに使 用します。
 形は、人台付きとつるし型の2種類があり、いろいろと工夫されたものが市販されています。 人台付きのものは、えりの仕上がりなどを点検するのに適しています。つるし型は、ゆきがい っぱいに伸ばせるもの を選びましょう。柄の 配置や寸法などを点検 するのに適しています。

運針の仕方

1.指ぬきのはめ方
 指ぬきは中指第一関節と第二関節の間には> め、少しきつ目のものを使います。

2.針の持ち方
 指ぬきに針のメド(穴のあいているほう) をあて、親指と人差し指をよく伸ばして針先 を持ち、針先が指先より 0.3cm位出る長さの 針を使います。

3.運針の姿勢
 @上半身を正しくして座ります。
 A胸をはらず、肩の力をぬいて楽な姿勢になります。
 B両腕はひじからまげ、水平に前のほうに出します。
 C手首をまげ、両手の親指先を向かい合わせます。
 D少し下向きになり、目より布までを30cm位、胸より布までを15〜20cm位、両手親指先の間を15〜20cm位にします。

4.運針の仕方
 運針の練習には、織り目のつんださらし木綿などを使います。
 @はじめに2〜3針布を縫って針を固定します。(図1)
 A親指と人差し指で針を持ち(針先が0.3cm位指先より出るようにする) 軽く折りまげた中指の指ぬきに針のメドを直角にあてます。(図2)
 B針が布を通るとき、布と針が直角になるようにします。布が斜め45°位の位置にあるときは針先を斜め45°位に向けます。親指をそえ、指ぬきで針のメドを押し、針先の布を向こうに通します。布を大きくつかみ、 指ぬきは布の向こう側から針のメドにあてます。(図3)
 C次に、布を斜め45°位の位置にもっていき針先は斜め45°位の方向に向け、人差し指をそえて指ぬきで針のメドを押し針先を布の手前に押し通します。(図4)
 D B、Cの動作を繰り返し、両手首を十分に使い、布や針が正しい位置にくるようにします。
 E糸こき
  1区間(15〜20cm)縫ったら、縫いつまった布を軽く親指と人差し指でしごきます。これを2区間繰り返したら針を抜き、糸こきを十分にしま す。糸こきは親指先と人差し指で縫い目をしごき、縫い縮みのないよう にすることです。(図5)
 F縫い目の点検
  布の裏表に同じ縫い目が出ているか、縫い目が一直線になっているかを点検します。

基礎縫い

1.縫い方

(1)本縫い(ぐし縫い)
  布を縫い合わせるとき最も多く使う縫い方で、運針は主にこの練習をします。
  縫い目の大きさは、4p位の間で布の片側に出ている針目の数を6〜8目にします。

(2)縫い返し
  始めの縫い目の間に、糸を割るように縫い返します。

(3)半返し縫い
  一針の半分返って次の一針を縫い進む縫い方で、ほころびやすいえり先やそで付けどまり、そで付け山などに使います。

2.糸のとめ方

(1)打ちどめ(玉どめ)
 針に通した糸はしに糸玉を作って縫うことによって、縫い始めをとめ、縫い終わりにも糸玉を作ってとめます。
@縫い始めの糸玉(玉結び)
  親指と人差し指で糸はしを持ち、人差し指に一巻きして輪を作り、くるっとひねって輪を指先よりはずします。中指の爪と親指で押さえて糸を引っ張ると糸はしに糸玉ができます。糸玉がちょうど糸のはしになるよう注意します。

A縫い終わりの糸玉(玉どめ)
  縫い終わりの縫い目に直角に針をあて、針先に糸を2〜3回巻き付け、親指で押さえ針を引き抜いて糸をしめます。

(2)返しどめ
 縫い始め、縫い終わりともに4〜8p縫い返します。縫い返すときに始めの糸を割るように針目を出します。

(3)すくいどめ
  縫い始めや縫い終わりで、ごく小さく一針布をすくい、針先に糸を2〜3回巻き、針を引き抜き、糸にしっかりよりをかけながらしめます。

(4)かんぬきどめ
  縫い目に直角に0.4p位の針目で糸を2本渡してすくい、この2本の糸を芯にして針を通し糸をかけて引きしめます。渡した糸いっぱいに糸をかけ、さらにもう一度余分に糸をかけてしめ、裏へ糸を出してとめます。単衣物のそで付けとめ、わきどまりなどに使います。


3.縫い合わせ方

(1)合わせ縫い
  布を合わせて縫う、最も基本的な縫い方で、普通に縫うといえば、この方法のことをいいます。

(2)二度縫い
  一度決まった縫いしろを縫い、さらにもう一度耳はしより0.3p位入ったところを縫って(空縫い)、縫いしろが開かないようにすることをいいます。背縫いなどに使います。


4.くけ方

(1)耳ぐけ
 布はしが耳のときに、そのままでくける方法で、耳から0.2〜0.3p入ったところに、小さく裏・表・裏の順に針目を出し、次の針目までは布と布の間をくぐらせます。

(2)折りぐけ
 布はしを0.8〜1p位折り、折り山の0.1p位内側に針を通して表布に小さく針目を出してくけることをいいます。
 布はしを三つ折りにして、折り山をくける方法を三つ折りぐけともいいます。針目の間隔は布地と折りしろによって変わります。

(3)本ぐけ
  2枚の布のくけしろを裏に折って合わせ、表側からくけ合わせる方法で、折り山の0.1〜0.2p位内側を、縫い目に合わせた針目でくけ合わせます。


5.しつけ

(1)一目落し(平しつけ)
裏に一目ずつ小さく落として押さえます。
(2)二目落し(大小しつけ)
裏に二目ずつ小さく落として押さえます。
(3)縫いしつけ(ぐししつけ)
表に小さく目を出して押さえます。


6.糸のつぎ方

(1)重ねつぎ
 縫っている途中で糸が足りなくなったり、切れたりしたとき、縫ってきた糸はそのままにして切り、新しく縫いつなぐ糸のはしを玉どめして、5〜8p手前から前の糸を割りながら縫い重ねていきます。玉どめは、布の向こう側へ出します。

(2)重ねぐけ
  くけ糸が途中でなくなったとき、くけ終わりの糸はそのままにして、新しくつぎたす糸で、数針同じ針目の糸を割って重ねてくけます。